口蓋の上で声を出す~発声法はまず発音から
今日は、口蓋の上で声を出すことを理解するために、発音についてお話します。正しい発声法は、正しい発音の上になりたつと、先生が言っておりました。
日本語の表記をみた所では、母音と子音とをわけて発音することを考えませんが、発声法では、わけて発音する練習をします。鼻腔・副鼻腔を響かせるのは、子音でなく、母音の方になります。⇒吃音の原因について
2階で~口蓋の上と下
口の中の天井を口蓋(口のフタ)といって、鼻腔と口腔をわけている場所がありますが、そこを境に、1階2階とわけると、鼻腔・副鼻腔は2階ということになります。以後、便利のために、そう呼ばせてください。
口の開け方
さて、日本語は表記上、たとえば『かきくけこ』を『KA、KI、KU、KE、KO』と書くことをしませんが、
母音は、『A、I、U、E、O』の5種類で、子音はアルファベット26文字のうち、母音以外のものになります。
母音の発音は、発声法で『ヴォカリッザーレ』といって、万国共通、鼻腔・副鼻腔で、更にその上の頭の上から声が降りかかってくるように発声をします。
ただし基本となるのは、『A』「あっ」です。
(『あ』でなく『あっ』になる理由はあとでご説明します。)
はじめのうちは、『A』の口の形で、A、I、U、E、O全部発声していただいて大丈夫です。
あらかじめ、歯医者にかかったときのような、大きな口をあけておいてください。
そのとき、上の歯茎の奥と下の歯茎の奥もみえることが理想です。
(口が開けられない人は、開ける練習から始めてみてください。)
(最終的には、口の奥の方だけ開いたらいいので、歯医者でするような口をあける必要はございませんが、はじめは奥歯が見えるように開けていただく方が進歩するかもしれません。)
子音の発音
次に子音の『K』ですが、母音が口蓋の上(2階)で声を出すのと違って、子音は、歯、舌、くちびるを使って、口蓋の下(1階)で出します。
子音は、軽く発音することが肝心です。
『K』は、舌の根の両側あたりを緊張させて「くっ」と息だけでいいますが、くれぐれもほんの軽くやってみてください。
そのあと間髪入れずに『A』「あっ」をやりますので、『KA』「かっ」になりますが、
『か』は『K』と『A』の合成作業であることを、覚えておいてください。
はじめは、みなさん、顔が伸びたり縮んだりするみたいですが、このときも、必ず鼻腔の圧力を感じてください。
「くっ」→「はっ」→「くっ」→「はっ」→同時に「かぁっ」という感じです。
1階→2階→1階→2階→同時に2階という感じですね。⇒(6)息の通り道
先人の技術(わざ)
もう何年も前ですが、歌舞伎の舞台稽古をTVでみていたときに、先代の羽左衛門が若手に、「とんでもないこと!」の「と」はいわなくていい、「おんでもないこと!」といいなさい、といっていたのを思い出します。
これが2階の声でしょうか。
『TO』の子音のTをやりすぎると、舞台の遠くまで声が届かない、ということだったと思います。
また、これも随分昔になりますが、モンセラット・カバリエが「トスカ」の日本公演で、たしか横浜アリーナだったと思いますが、
『Vissi d’arte』のVが、iよりもかなり前に、彼方から嵐の風の音のようにきこえてきたのを、印象深く思い出されます。
鼻腔にたっぷりと息をはらんでいると、1階で発音するはずの『V』の上に感情があふれるように『i』がこちらに迫ってきこえてくるのをきいて、とても感動的でした。
声は2階から発せられると、ことばやその心を人にわからせ、感動をもたらします。⇒ミッション
母音は口蓋の上(2階)で発音

さて、今日は、声は口蓋の上(2階)で出すものであること。しかし、一時的に口蓋の下(1階)にもおりなければいけないので、口蓋の下(1階)の滞在時間をなるべく短く発音することなど、わかっていただけたでしょうか。
なぜ、口蓋の下(1階)で声を出す時間を短くするのか?⇒FAQ
それは、口蓋の下(1階)で無理に大きな声を出そうとすると、声帯という筋肉を傷つけてしまい、声帯炎や声帯ポリープの原因にもなってしまうからです。
⇒声の問題~よくある症例
声帯炎や声帯ポリープの原因に
何年も口蓋の下(1階)で無理な『のど声』を出し続け、歌手生命を縮めてしまわれた、プロやアマの歌手がたくさんおられることを、ご存知の方もおられるでしょう。
同じく、咳、ぜんそく、痰切りなど、口蓋の下(1階)でする癖をつけてしまうと、あとあと、のど声のダメージと同じく、声帯炎等の病気になってしまうことがあります。
⇒声で変わる健康
出しにくい声を口蓋の下(1階)で無理に出したり、のど(1階)で無理に痰を切ろうとしたり、のど(1階)で無理に咳き込んだりすることのないように、
若いうちから、鼻腔・副鼻腔のある、口蓋の上(2階)で声を出し、のどから離れた所に声や息の意識を持ってくることによって、のどをいたわる習慣をつけていただきたいと思います。⇒のどが疲れない音読法
最後に、参考までに、芸能人の声帯ポリープ切除に関する記事をご覧ください。岡村隆史、正月休みに行った声帯ポリープ手術を語る
それでは次回、息の通り道について、お話しようと思います。