息の通り道
今回は、鼻呼吸をして、さらに鼻腔・副鼻腔の内圧を高め、これから、息を持続したり大きな声を出せるように、顔の前面で上部にある息の通り道を確認しましょう。⇒FAQ
前回は、舌で声の出る場所(鼻腔・副鼻腔)の息をふさいで息漏れを防ぎ、湖面(声を出す場所のイメージ)を作って、そこから沈まない声を出すように、訓練していただきました。
歌の字
(5)声を出す場所のイメージでは、声を息の湖面の上で弾ませるように、
(4)口蓋の上で声を出すでは、1階で子音を軽く、2階で母音を響かせることをお伝えしました。
歌という漢字を見てください。口が2つあります。
歌
よくみると、人間の横顔のように見えませんか???
右側のつくりの部首は『あくび』ですが、のど(咽頭から喉頭)に見えないでしょうか?
それで、『へん』の部分は、口蓋(口の中の天井)をはさんで、下は1階の口腔、2階は、鼻腔・副鼻腔に、なんとなくみえてきませんか?
漢字は、古代中国からの表意文字ですが、すごいヒントを頂きました。
この漢字でみてゆくと、あくびの部分ですが、息(空気)の貯蔵庫になります。つまり、息(空気)はためておくだけで、動かさないでいただきたいのです。
息(空気)を動かしてよいのは(息の通り道は)この漢字上では、左上の『可』部分だけになります。
前から見ると、こんな感じです。手書きで失礼します。
息の通り道(図解)

以前、声を出す場所を見つける練習をするときに、「小さな声で短く」とお願いしたのは、鼻腔・副鼻腔あたりの息(空気)だけを使っていただくためでした。
「はっ」を発声するのに必要な分量だけ吸っていただき、声をだすと、息がこぼれ、声帯が閉じ、息は下がった状態になってしまいますので、すぐに、息をもちあげて、一番はじめの発声時と同じ状態に戻らなければいけません。⇒(9)息の持ち上げ方、即!鼻呼吸にきりかえる法
このとき、息漏れを抑えるために、舌で口蓋をふさぐと効果的でした。⇒(5)声を出す場所のイメージ
※もしもできないときは、舌を外に出してしまって、だしたまま、練習されてみるのもいいです。⇒嚥下障害と予防法
舌は下?

舌は、下と同音異義語になりますが、発声法では、舌は下にあってはいけません。
これから、舌は上にあるとお考え下さい。
例えば、一声発音すると舌は下に下がってしまうものですが、気づいたら、いちいち上にあげなおしてみてください。
舌を口蓋の天井に張り付け、息漏れを防いだ状態が、息を止めている状態になります。
※一般的には、舌先は上歯の裏、舌根は下歯の裏にあり、舌全体の力を抜くと、口蓋という口の中の天井に、バキュームのように張り付けることができます。
息を吸うと同時に声を出してはいけない
ところで、TVドラマを見ていて、息を吸うと同時に声をだしたり、息をはきながら話している人があります。
息を吐いたまま、息がたりなくなって、話し続けたり、動き回ったりしている状態が、息(声)の落ちた状態ですが、それは健康にとてもよくないです。⇒声で変わる健康
その状態を続けていると、体がしびれたり、力が入ってこわばり、あちらこちらに凝りが生じてしまいます。
舌を利用して落ちた息を持ち上げる
息を鼻ですったら、その吸った息の分量だけの、おしゃべりや、動作、をすることから、はじめてみてください。そのとき、舌を口蓋の天井にバキュームのように張り付けて鼻腔・副鼻腔の息を持ち上げます。⇒嚥下障害と予防法 (9)息の持ち上げ方
息をたくさん吸う必要はありません。ただし、吸うたびにお腹がひっぱられること、それから、吐く息のことは、特に考えなくてもいいと思います。⇒のどが疲れない音読法
声を出すことが、吐く息ですし、声を出していなくても、息は勝手に漏れてなくなります。
うまくゆかない人は、舌先で上あごを持ち上げるようにしてみてください。左右別に挑戦し、副鼻腔の響きが作れる方から、練習してみましょう。舌は緩めるといいのですが、この場合、力を入れなければ、上あごは上がりませんね。すごい顔になりますよ。
息は横でなく縦に吸うこと
ここで、息の吸い方を確認します。吸う時は、鼻から目のまわり、眉間やその上あたりまで、縦に吸うことを心がけてみてください。上図の矢印のようにされてください。
間違えても、口から吸って咽頭(のど)に息が激突!それで炎症をつくられたりされませんように、お気を付けください。⇒声の問題~よくある症例
(4)口蓋の上で声を出すでしたように、1階から2階へ、最短距離で上がれるように、息の通り道を確保されてください。
それで息の湖面(5.声を出す場所のイメージ)を続けて設定してください。

ハンドソープのボディを「鼻腔・副鼻腔」に、ポンプの口を「眉間とかまゆげ」に見立ててみてください。
発声法は芸術であり、このように実用主義に陥るのは本意ではありませんが、緊急事態ですのであしからず。(理由があるのですが後ほど)
ポンプから泡が出てくるように、声も鼻腔の高い所から、簡単に出てきます。
とはいっても、これは現代がマイクロフォンの声をつくる時代なので、このたとえが適用できます。
本当のいい声は、完全に体から離れた所の空気が振動する感じです。
師匠から、Francesco Tamagno の話を聞いています。タマーニョの声は、スカラ座公演中、建物の外からでもその声が聞こえたといわれていたそうです。家にLPレコードがあり、彼の1903~1904年の録音で Il Trovatoreなど聞くことができますが、口跡(発音)が正確で、鼻腔・副鼻腔の口蓋の上で歌っていることが聞き取れます。声の正体が、筋肉の振動か、それとも空気の振動か、だれでも判断できると思います。
欠の部分に太い息の柱を感じる
(2)鼻腔・副鼻腔に息をはらんで力抜くこと、でもお伝えしましたが、のど(咽頭~喉頭~気管)の息を利用するけれども、イメージとしては、頭のてっぺんから、臍下丹田につながる、太い孟宗竹を息の柱に見立ててください。

上図の歌の字のつくりの欠の部分に当たります。
それで発声時に、のどの奥や、後頭部にあるような、空気(息)を使わないで、満タンにして不動にしておいてください。(上図の顔の前面上部を使う息の道とは別の、鼻腔のそれより後ろ側の息の柱のことで、そこの息は動かさないでください。)
方言によって、感情の起伏によって、体調によって、声が、頭のどの部分から発せられるのだろうかと不思議になるくらい、声は、あちこちの頭の骨から、反響して聞こえてくるものです。
しかし、声をつくる決心をしたら、そのあちこちに散らばっている声は、あきらめていただきたいと思います。
理由は、腹式呼吸の(1)声の出し方をするため、そして、(2)鼻腔・副鼻腔に息をはらんで力を抜くためです。
鼻腔・副鼻腔で声を出せるようになれば、声を回して、声を自由自在にコントロールできるようになりますので、声を出す場所はかわるけれど、方言も感情も、同じように表現できるようになるはずですから。
何も心配されないで下さい。
さらに、今は短い声、小さい声の練習ばかりしていただいてますが、そのうち、大きな声や、息を持続させる方法を覚えなければいけません。
その時のため、息の太い柱は、重要なイメージとして、おさえておいていただきたいことになります。
では次回は、(7)声の回し方について、書いてみようと思います。