姿勢・体幹と鼻呼吸の関係

首や肩が固いと、呼吸が胸上部に偏り、声も息も短くなりがちです。

呼吸柱の再構築は、腹部で固めることではなく、胸郭と頸部の過緊張をほどきながら“通す”ことにあります。

ここでは姿勢を「見た目」ではなく、呼吸と声が疲れにくい配列として扱います。

① 鼻呼吸に大事な姿勢・体幹

鼻からのびやかに息が入ると横隔膜が働き、お腹と胸がちょうどよく連動します。

さらに起きているのは「首の上だけの鼻呼吸」ではなく、足裏の支持→骨盤→胸郭→横隔膜→舌・舌骨→軟口蓋(鼻咽頭)→喉頭→顎という全身の協調です。

頭が前に出る姿勢(前方頭位)は呼吸の効率に影響しうることが報告されており、首肩の代償が増えると、呼吸も声も“押し気味”になりやすい、という説明がしやすくなります。^[6]

その結果、体幹が安定して姿勢が保ちやすく、声も出しやすくなります。

逆に口呼吸や首が前に出た姿勢は、首まわりの余計な力を増やし、息の通りと声の響きを落としがちです。

鼻呼吸が深まりやすい状態では、横隔膜の動きに合わせて腹横筋や骨盤底(+背骨を支える深層筋)が協調し、体幹の内圧が“筒(コア)”のように整いやすくなります。


ここで出てくる鼻咽頭(軟口蓋周辺)は、コアの「筒そのもの」というより、上気道のバルブ(通り道の調整)として働く部分です。

下(横隔膜〜体幹)の支えが整うほど、上(鼻咽頭〜喉頭〜顎)も“押さずに通す”方向へ移りやすくなります。

② 鼻呼吸に大事な顎の自由度

とくに顎の自由度は大切です。顎が固い(ほとんど開かない/噛みしめ気味)状態では、舌・舌骨・喉頭まわりの動きも連動して硬くなりやすく、結果として呼吸の通り道が狭く感じられます。

音声研究では、音高(F0)や母音の作り方と顎の開き・声道調整が結びつくことが示されています。^[1][2]

また、母音の音響(フォルマント)変化は舌だけでなく顎運動も関与し、条件によって“舌優位/顎優位”が変わる、という運動学×音響の知見もあります。^[3]

さらに、顎関節まわりの問題(TMD)と、声のQOLや自覚症状の関連を検討した報告もあり、顎まわりの緊張を「声と無関係」と切り離さない視点は有用です。^[4]

口呼吸が続くと顎顔面の発達や不正咬合に関わる可能性を示した系統的レビューもあり、若年層の“顎の硬さ・呼吸の浅さ”を軽視しない根拠になります。^[7]

※私の「呼吸柱バランス法」では、トノス(張りのある息の土台)の上に声を“そっと乗せる”ことで、筋力で押し切らずに整える方向を提案しています。

鼻呼吸の習慣化が難しい方には、まず昼の短時間から、口唇の緊張をほどき鼻呼吸へ戻りやすくする補助として「鼻呼吸リップピース」を活用する方法もあります(個人差あり)。

※顎の痛み、顎関節症が疑われる場合、また噛み合わせの違和感が強い/食事に支障が出る場合は無理をせず、歯科・医療職に相談してください。

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参考文献

  1. Sundberg J. Dependence of jaw opening on pitch and vowel in singers. J Voice. 1997;11(3):301–306. doi:10.1016/S0892-1997(97)80022-0. PubMed (歌唱の音高・母音と顎の開きの関係(プロ歌手で顎開き計測))
  2. Erickson D. The relationship between jaw movement and fundamental frequency. Acoust Sci & Tech. 2017;38(3):137–141. doi:10.1250/ast.38.137. J-STAGE (顎運動とF0(音高)の関係:顎・舌骨・喉頭の解剖学的連結を踏まえた議論)
  3. Mefferd AS. Tongue- and Jaw-Specific Contributions to Acoustic Vowel Contrast Changes in the Diphthong /ai/ in Response to Slow, Loud, and Clear Speech. J Speech Lang Hear Res. 2017;60(11):3144–3158. doi:10.1044/2017_JSLHR-S-17-0114. PubMed (舌と顎の寄与が母音の音響(フォルマント)を形作る:運動学×音響の研究)
  4. Adessa M, Kim J, Tierney WS, Benninger M. Temporomandibular Dysfunction and Voice-Related Quality of Life Impairment. Laryngoscope. 2024;134(1):315–317. doi:10.1002/lary.30927. PubMed (TMD(顎関節症)と声のQOL/嗄声の関連:TMDと音声関連QOLの関係を検討)
  5. Tomlinson C, et al. Manual Therapy and Exercise to Improve Outcomes in Patients With Muscle Tension Dysphonia: A Case Series. J Voice. 2015. PubMed (筋緊張性発声障害(MTD):頸部・喉頭周囲の過緊張が関与しうる/徒手療法+運動の報告)
  6. Zafar H, et al. The effect of forward head posture on diaphragm muscle strength in healthy individuals. BMC Musculoskelet Disord. 2018. PubMed (姿勢・呼吸の連関)前方頭位が横隔膜筋力に影響を検討した研究)
  7. Zhao Z, et al. Effects of mouth breathing on facial skeletal development and malocclusion: a systematic review and meta-analysis. PubMed (口呼吸→顎顔面発達の背景)口呼吸と顎顔面発達・不正咬合の系統的レビュー