顎シリーズ第5回|顎は「開ける」より「ほどける」——声が変わる入口

顎は「開けるもの」だと思われがちですが、私はむしろ ほどけるもの だと感じています。


顎を開ける練習をしても楽にならないとき、問題は顎そのものではなく、声の出し方(息の使い方)にあることが少なくありません。

声を出すときに大事なのは、力で押すことよりも、
息の手応えが定まり、身体にしなやかな張りが生まれ、声の“場所”が立つこと。


この条件がそろうと、顎は「頑張って開く」のではなく、自然にほどけていきます。

逆に、緊張が続いて自分の感覚を置き去りにすると、
息が散って、身体の張りが作りにくくなり、声の場所が立ちにくい。


その結果として、顎もほどけにくく、声は押し出しに寄りやすくなります。

だから私が提案したいのは、顎を操作する前に、まず 呼吸の入口と声の場所 を整えることです。


今日のミニ実践(30秒)

  • 歯は離す(上下の歯は触れない)
  • 唇は閉じるが力は入れない
  • 鼻から静かに吸い、吐く息に「mmm」を薄く乗せる
    (声量ではなく、声が当たる場所を探します)

※この考え方を日常で再現しやすくするために、「鼻呼吸リップピース」も試作しています(詳細は別記事でまとめます)。


研究ノート(深掘り:声の自由と“支え”)

ここから先は、声を「技術」だけでなく「姿勢(生き方)」として捉えたい方向けのメモです。

私が言う「美しい声」は、生まれつきの放任の自由ではありません。


むしろ、整える習慣・言葉・関係の中で育っていく自由です。

自分の感覚を裏切り続けると、しなやかな張り(トノス)が組めず、息の手応えも定まりにくい。
その結果、声の場所が立たず、顎もほどけにくい。


だから、トノスは「意志」だけでは作れない。


トノスが育つ環境(関係・言葉・安全)に身を置くことが必要な場合がある——私はそう考えています。

そして、顎や呼吸の問題は多因子ですが、ストレスとブラキシズム(歯ぎしり等)の関連を示唆する系統的レビューもあり、生活の圧が顎に出ること自体は珍しくありません。


だから私は、顎の問題を個人の弱さとしてではなく、「呼吸の入口が狭くなりやすい環境」の課題としても見ています。


参考文献

  • dos Santos Chemelo V, et al. (2020). “Is There Association Between Stress and Bruxism? A Systematic Review and Meta-Analysis.”(ストレスとブラキシズムの関連)
  • Polmann H, et al. (2021). “Association between sleep bruxism and stress symptoms in adults: a systematic review.”(睡眠時ブラキシズムとストレス症状)