「顎を開けないと高い声が出ない」――これは歌の世界ではよく知られています。
けれど顎の自由度は、高音のためだけではありません。
日常の話し声の明瞭さや疲れにくさにも関わります。
発声では、顎の開きは“口を大きくする”というより、声道の形(共鳴の通り道)を調整する動きの一部です。
歌唱研究では、音高(F0)や母音の作り方と顎開口が結びつくことが報告されています(母音や音高により顎の開きが変わる)。
つまり顎は、喉とは別の部品ではなく、声の設計図の一部です。
顎が固い(ほとんど開かない/噛みしめ気味)状態では、舌・舌骨・喉頭まわりも連動して硬くなりやすく、結果として「息の通り道」が狭く感じられます。
すると声は共鳴に乗せるより、喉で押す方向に寄りやすく、首肩の代償(胸鎖乳突筋・僧帽筋など)が増えがちです。
ここで重要なのは「顎を大きく開ける」ことではありません。
最初の入口は、顎を固めないことです。
奥歯が触れていないか、無意識に噛みしめていないか。
これだけで、息と声の立ち上がりが変わる人がいます。
30秒セルフチェック
1)奥歯を軽く離す(上下の歯は接触させない)
2)唇は閉じても良いが、できれば開けてゆるめる。
3)鼻から吸い、吐く息に小さく「ふん」を1回だけ乗せる
このとき、喉ではなく“通路が前に開く”感覚が出れば、顎の自由度が呼吸と声に影響しているサインかもしれません。
私はこの入口を「トノス(張りのある息の土台)」の上に声をそっと乗せる形として整理し、呼吸柱バランスへつなげます。
筋力で頑張るより、消耗しにくい使い方を先に整える。
とくに回復がゆるやかになりやすい年代ほど、体調管理として合理的です。
※顎に痛み・クリック・開けにくさがある場合は無理をせず、歯科・医療職に相談してください。
④ 医療・リハ補足
顎位置や顎開口は声道調整に関わり、研究でも歌唱における顎開口の変化が検討されています。
顎関節や咀嚼筋に痛みがある場合は、無理な開口は悪化要因になり得るため、痛み・開口障害が続く場合は歯科等への相談が安全です。
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